71号から

新作名刀展

河内一門トリプル受賞

 春、嬉しいニュースが飛び込みました。
 新作名刀展で河内一門の三刀匠がご案内の賞に輝き一門の技術が認められました。
 国内が安定した江戸時代、刀剣が権威の象徴となり外見的な美しさが刀に要求されました。この考えのため、武器としての刀の製作技術が途絶えることになりました。
 幕末の刀剣需要期、水心子正秀により唱えられた「刀剣復古論」も表面のみの模倣にとどまり、以後二百余年、この時代の技術が日本刀製作の技術と信じられて現在に至りました。
 今年、「映り再現技術」が河内刀匠により「原点に戻って」の考えから再現され、この結果が去年の正宗賞に引き続き今年の「新作名刀展」でも、弟子たちの作品で認められました。
 お時間の許す方は是非作品をご覧になってください。(七十号催事案内参照)
 この快挙、報告のため「映り出現のお話」は紙面の都合上お休みさせていただきます。(杉浦 記)


特賞(寒山賞)
「授賞の言葉」 高見太郎國一
 この度、久々に特賞をいただき嬉しく思っています。
 弟弟子の金田君に負けた事が兄弟子として恥ずかしいですが、新作名刀展において、一門から二人も特賞に入ることが出来ましたことは、認められているという事なので嬉しく思っています。
 私も厳しい充実した修行をしたという自信はありますが、金田君もまた厳しい修行に耐え、私の経験したことのない充実した修行をしたことは間違いないと思いました。
 私はこの一年、思いもしない病気になってしまい、入院してしまいました。退院後もいつものように鎚を振るう事が出来ませんでした。今思うとそんな中、休むことなく十六回目の出品をすることが出来ただけでも運があったのだと思います。
 家族、親方、ご心配おかけしました皆様に心よりお礼申し上げます。
 昨年は新作名刀展に於いて親方が正宗賞を受賞され、私たち弟子に素晴らしい道筋を示してくれました。
 私は今まで、親方から習ったことを基に自分なりに進化させ、認められる所までは来ましたが限界も感じていました。そんな苦しみを分かってくれるのは親方しかいませんでした。
 親方は七十歳を過ぎても昔と変わらず日々努力されています。四十代の私と話をする時の声の強さや仕草も変わることはなく、「大丈夫」「僕もや!」たわいもない会話から、いつも私は元気をもらい前に進んで行くのです。
 今回の出品刀は新しい事への挑戦でした。焼き刃土や土置きなどは理解するまで難しく、まだまだ新しい事が隠れてい  るように思われます。
 今までのようにリズムよくまだ手は動きませんが、数を熟し上手くなるしか近道はありません。
 今年の出品刀で嬉しかった事が一つありました。それは、刀が研ぎあがった時、研ぎ師の井上聡さんから「この刀が欲しいんだけど」と言われた事です。
 今までも多くの刀を研いでもらいましたが、「良くできている」「僕はいいと思う」「好きだけど」という言葉はありました。しかし、「本当に 欲しい」という言葉を聞いた時、刀鍛冶としてこれほど嬉しい事はありませんでした。


努力賞
来年に向けて   小宮六郎國天
 平成二十七年新作名刀展にて、努力賞を受賞させていただきました。何年か続けて受賞させていただいて、嬉しく思います。平成二十四年に優秀賞を頂いています。
 技術面では,上手く出来ているとは思いますが、自分の中でその作品のイメージが強く、超える作品が出来てないような感じがします。
 二年前から、弟も研ぎの修行から帰ってきて、姿や刃文を見てもらっていますが、なかなかうまくいきません。なぜならば、私は刀鍛冶、弟は砥師の目線で見てしまうからです。
 姿を見るのは、砥師の方が分かると思うので、言われたようにしていますが、刃文となると、意見が分かれてしまいます。
 私は、土を置いたように焼けた方がいいと思っていますが、弟は、美術的な面や、面白さ、今後この刀が、私の作品として遺しても良いものか?で見ている様です。
 兄弟だから言えることもあるようで、かなり厳しく言われます。
 私にとってありがたい事です。
 私や弟にしても、昨年の作品より、良い作品をと思って終着点は同じような所にあるのですが、喧嘩になったり、落ち込んだりしています。
 過去の作品を超すという目標や、親方、父、兄弟子、弟、いろんな方々から、教えを頂けるという事は、もっと良い作品を作っていけるものだと思っています。
 今は、何となくですが、力をためる時期なのだと、感じています。
 今年からは、少し考え方を変えて、良い作品を、作らないといけないと思っていますが、一気に上を目指すのではなく、一つ一つ課題を無くして行く様にしました。
そうすれば、良い作品も出来て来るかと思います。だからと言って、課題が無くなるわけではありません。より良い作品や上を目指すうえでは、絶対に出てくる問題なので、挫けない様、頑張ります。
 最後になりましたが、これからも、皆様の厳しい目で作品を見て頂いて、ご指導、ご鞭撻の程をよろしくお願い致します。


特賞(薫山賞)・新人賞
受賞のことば 『初出品』  金田七郎國真
 この度「薫山賞」並びに「新人賞」を戴きました。皆様にはたくさんの御支援を頂きありがとうございました。
 初出品で薫山賞を頂けるなどとは夢にも思わず、とても驚いています。
 高校を卒業して親方の元に入門して早や七年、毎日朝から晩までが忙しく、充実した日々でした。
 高校時代にやりたいことが見つからず、自分が将来どうしたいのか、どうなりたいのか悩んでいたときに出会った親方の本、『日本刀の魅力』のおかげで私は刀の世界を知り、刀鍛冶という仕事を知りました。
 刀のことなど何一つとして知らなかった私に一から刀とは何か、職人とは何か、弟子とは何かを叩きこんで下さった親方と奥さん。『自分がやりたい事ならばやればいい』と、反対することもなく背中を押して、毎年の様に吉野に励ましにき来てくれた祖父母と両親。何か機会がある度に弟子としての心構えや仕事に関するアドバイス頂いた兄弟子の高見國一さん、色々な人のおかげで今の私があり、そして今回の受賞に繋がりました。
 今回の出品刀は初めて最初から最後まで自分一人で仕事をしました。
 七年の間で一通りの仕事は弟子として経験してきてはいましたが、いざ一人で刀を作るとなると中々思うように進まず、仕事に対する自分の考えの甘さを痛感しました。
 親方の教えに従いながらなんとか形にはなりましたが、自分で作っておきながら自分の力で作り上げた刀だと自信をももって言えるものでは無く、複雑な心境です。
 来年こそは「これが自分の考えで作った刀だ!」と胸を張ってコンクールに挑める様、また今回の結果に驕る事なく、より名刀に近づける様に、仕事を見直し、努力していきたいと思います。
 職人としても人間としてもまだまだ未熟者ではありますが、今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いします。