59号から

漫画『カナヤゴ』月刊コミック 雑誌ゼノンに連載決定

漫画家  日笠 優
 引き続き、こうして記事を載せていただける事になり、とても嬉しく思っています。この度、七月から、コミックZENON(ゼノン)という雑誌で、漫画を連載させていただく事となりました。
 漫画のタイトルは、『カナヤゴ』。
 一人の女子高生が、美しい日本刀と出会った事をきっかけに、刀の虜となり、刀鍛冶を目指しながら成長して行くという物語です。
 タイトルは、製鉄の神様とされている“金屋子神”からいただきました。
 主人公の名前が”かなみ”である事、そして、古くは、鉄を扱う職人の事を総じて”金屋”と言ったそうで、『カナヤゴ』には”鍛冶屋の子”という意味も込めました。
 前回の佳兆にも書かせていただきましたが、河内國平親方の著書『刀匠が教える日本刀の魅力』との出会いがあり、私は本格的に、漫画家としての道を歩む事となりました。いつかプロになって、漫画を連載できるチャンスがあったら、もう刀鍛冶の話しを描くしかないと、以前よりずっと考えていました。本からにじみ出る、國平親方の情熱的な生き様は、それほどの影響力があったのです。『カナヤゴ』を描くにあたり、編集側からは賛否両論の意見をいただきました。
 鍛冶屋が主人公の話では、古くさい漫画になってしまうのでは』という意見もあれば、『漫画では、まだ新しいテーマなので、面白いと思う』などと言ってくださる方もいました。
 漫画は、読者あってのエンターテイメントですので、作品を世に送り出す側は、たくさんの面白い漫画の中から、手に取っていただける様な作品作りを目指さなければなりません。
 当初、この『カナヤゴ』は、江戸時代が舞台の時代物になる予定でしたが、漫画で時代物をやる場合、読者を選んでしまう可能性があるという事で、現代が舞台のお話に、大きく変更しました。
 時代背景が現代になった事により、刀の用途がぐっと減ったため、物語の中でいかに刀の魅力を観せるか、それまで以上の工夫が必要となりましたが、刀が必要とされない今の時代に、全てを懸けて刀作りに励む現代刀鍛冶の想いを、 リアルに表現できるなど、結果的には、現代のお話にしてよかったと感じています。
 連載が決まるまでは、アシスタントの仕事をしながら、ネーム(ストーリーを描いたラフなコマ割りで、下書きのさらに下書きの様なもの)を作りました。何回も打ち合わせをしながら、何回も書き直し、読者を意識した漫画にするために、少しずつストーリーを作り直して行きました。その数は、二話分で、コピー用紙数百枚分におよび、連載作品を決める編集会議に提出するまでは、半年ほどかかりました。『主人公は魅力的でなければならない』『台詞を多くしない方がいい』『ストーリーよりも主人公が前に出る様な作品にしなければいけない』などなど、ネームを見せるたびに、編集からの意見が雨の様に降り注ぎますが、それらは全て、的確でもっともなアドバイスでした。
 そこで、それらを何とか作品に繁栄できる様に、試行錯誤しながら地道にストーリーを形にしていきました。かくして、『カナヤゴ』のネームは完成し、編集会議を経て、連載をさせていただく事となりました。
 連載が確定した時は、この上ない喜びでした。漫画家になる事は、子供の頃からの夢でしたので、本当に嬉しかったです。ネームの次は、作画です。原稿用紙に絵を描いて行く行程ですが、ここでも、自分の未熟さが炸裂しました。
 なんせ思う様に絵が描けないのです。
魅力的な顔を描きたいのですが、デッサンは狂うし、描くのは遅いし、そして描いた絵を次の日に冷静になって見ると、ひどいものでした。そんなページが何枚もあり、たくさん描き直しをしました。
 『カナヤゴ』を描くにあたり、本を読んだり、展示を見に行ったり、勉強会に参加したりと、少しずつではありますが、刀に触れ、学んでいます。取材にも行きました。念願だった、河内國平親方と、そのお弟子さんであられる高見國一さんの鍛刀場を、二度に渡り訪問させていただきました。そこで、たくさんの貴重なお話を聞く事ができ、緊張感みなぎる仕事の様子を見学させていただきました。
 國平親方とあや子夫人、そして高見さんも、『応援しています』『わからない事があったら、いつでも連絡をください』と、惜しみなく言ってくださいました。
 刀を通じて、たくさんの出会いがあり、そして、多くの方々から支えていただきました。
 先日、『カナヤゴ』第一話が、ようやく完成しました。自分の未熟さが一気に噴き出した…、そんな作品となりました。はたして読者の方々に楽しんでいただける漫画になったかどうか、とても不安です。漫画の主人公だけでなく、私自身が、もっともっと成長して行かなければいけないという思いで一杯です。
 『向鎚みたいなもんは、うまいとかへたやとかいう問題やないんや。せなあかんねん。』本にあった國平親方の言葉がいつも頭をよぎります。応援してくださる方々の、温かい言葉から力をいただいて、これから先、少しずつ成長しながら、良い作品を作って行きたいと願うばかりです。
 未熟ではありますが、『カナヤゴ』をどうぞよろしくお願いいたします。

*「カナヤゴ」連載情報
雑誌名:月刊コミックゼノン
出版社:徳間書店
発売日:毎月二十五日(カナヤゴは七月二十五日発売の九月号掲載となります)