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この四月に、わたしの歴史小説『いっしん虎徹』が刊行される予定です。 佳兆の貴重な紙面をお借りしまして、すこしその紹介をさせていただきます。
『いっしん虎徹』は、刀鍛冶の長曽祢虎徹を主人公にした物語です。虎徹が苦労に苦労をかさ ねて名刀を鍛 え上げるまで の日々を読み
物に仕立てま した。虎徹はそも そも越前の甲冑師で、中年になってから 江戸に出て刀鍛冶となりました。 伝えられている伝記やエピソードはすくなく、しかも、はっきり信用できるものはあまりありません。故柴田錬三郎氏が、虎徹を主人公にした短編小説をお書きになっておいでですが、その作品では、幼年時代の虎徹が、関ヶ原の合戦のとき、近江佐和山城下か
ら逃げ出したことになっています。 大正時代の研究書にその説が書かれていたのですが、最近の研究では、誤りであることがあきらかになっています。
有名な兜割りのエ ピソードも、話としてはおもしろいのです、どこまで信用できるかわかりません。 詳細な伝記は不明 でも、刀鍛冶には、な
によりも刀が残され ています。残された刀を作刀年代順にながめて みれば、刀工の腕の上達と作風の変化が、 はっきり読みとれます。
わたしはそこから推測をはたらかせて虎徹の生涯を描きました。そのため、この物語はあくまでフィクションです。虎徹というひとりの刀工の
すがたを通して、鉄と格闘する男の力強い生き方を描いたつもりです。 さらに、ちょっと大げさにいえば、その背景に、日本における鉄の歴史を俯瞰したつもりでおります。そのもくろみがどれほど成功しているかは、みなさんのご判断を待つしかありません。実際の鍛刀現場を見せていただきたくて、東吉野の河内親方のところに初めてうかがったのは、たしか四年前の秋でした。それから何度かお邪魔して、はなはだご迷惑なことながら弟子部屋に泊めていただき、三日間だけですが、鍛冶場のお手伝いまでさせていただきました。そのおかげで、刀剣製作の場面を、くわしく描写することができました。
われながらかなり迫力のあるシーンが描けたのではないかと自画自賛しています。そもそもわたしは、日本の伝統的な技術に興味をもって歴史小説を書き始めました。
最初の作品が、鷹匠を主人公としたもの、つぎが城大工、そして、炮術師、三 人とも信長に仕えた実在の人物です。『いっしん虎徹』は四冊目の本になり
ます。 わたしの主人公たちはみんな、胸に熱い血潮をざわめかせて生きています。刀について調べ始めておどろいたのは、なによりも、いま現在、刀剣にたずさわっている方々の熱意です。河内親方はもちろん、弟子の方たち、研師の方、博物館の研究者、愛刀家…。みなさん、刀について語り出すと、何時間でも熱心に話がつづきます。
そして、話していてとても、楽しそうです。わたしの本に、熱っぽいなにか が宿っていると したら、それは、すべて河内親方
の人柄のおかげ です。 佳兆読者の方なら、わたしの書いた虎徹がだれに似ているか、きっとすぐお気づきになると思い ます。
「やまもと けんいち」 一九五六年、京都市生まれ。同志社大学文学部美学及び芸術学専攻卒業。出版社勤務後、フリーランスライターとして独立。
一九九九年、「弾正の鷹」で、小説NON短編時代小説賞受賞。二〇〇四年、『火天の城』で第十一回松本清張賞受賞、同作品が直木賞候補となる。
著書に、『白鷹伝』(祥伝社)、『雷神の筒』(集英社)がある。 ※雑誌「別冊文藝春秋」に連載されていた『いっしん虎徹』は、文藝春秋より四
月三十日に刊行の予定です。 (最終表紙デザインが決定されていません。変更の可能性があります) *「いっしん虎徹」 御希望の方は、お近くの書店、文芸春秋社にてお買い求めください。
佳兆事務局にても取り扱いいたします。現在販売価格は未定です。 現存資料を基に山本氏が創りあげた名工「虎徹」の生涯と生き様を堪能してみては如何でしょうか。
現在も吉野の山中で「虎徹」が刀を作っているかの錯覚をお感じになると思います。(杉浦記)
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