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佳兆(かちょう)

30号から
 
作家 山本兼一
東京芸大で河内刀匠が特別講義

 去る1月21日、東京上野の東京芸術大学に於いて、河内國平刀匠による刀剣製作についての特別講義が行われました。聴講させていただきましたので、ご報告致します。
 河内刀匠は、同大学で4年前、4日間の鍛刀実演特別講義を開講なさっていますが、今回は鑑賞会風の抗議、北田正弘教授のもとで文化財保存学を専攻する大学院生と工芸科で鍛金を学ぶ学生たちが対象です。
 河内刀匠が用意したのは、一文字から清磨まで五振と、拵をつけた復元刀二振。復元刀は、和歌山県の丹生都比売神社に伝わる獅子造兵庫鎖太刀と葦手柄兵庫鎖太刀で、金工製作者の上野修路氏も講師としておいででした。
 約30名の受講者の多くは、将来、博物館、美術館で学芸員となるのを希望しているといいます。
 しかし、河内刀匠が尋ねてみると、全員が刀剣類を手にするのは生まれて初めて、最初は、手を延ばすのさえためらいがちでした。
 それでも、ひとわたりの講義の後は、間近に刀剣を見つめる目に、熱がこもってきました。
 復元刀の外装製作についての上野氏の苦心談は、特に鍛金を学ぶ学生たちに強い刺激を与えたようです。
 「学芸員になるなら、刀剣についての初歩的な知識と心得だけでももっていてほい」というのが、河内刀匠の強い願いです。
 たしかに、刀剣類にふれた経験がまったくなければ、学芸員になっても、刀剣にかかわる展覧会の企画を敬遠してしまうかもしれません。間違った展示方法に気づかないかもしれません。そんな危惧があります。
 現在、ほとんどの日本人は博物館、美術館の展示でしか刀剣を鑑賞しません。そんな状況のなか、鑑賞環境の拡大と充実に学芸員が果たす役割は、たいへん大きいはずです。
 一度でも刀剣を手にした経験があれば、学芸員として日本刀の世界に興味を持ってくれるのではないか。
 河内刀匠の切実な願いは、受講者たちにしっかり伝わったことでしょう。
 なお、河内刀匠は、本年3月より、東京芸術大学院美術研究科非常勤講師になられました。