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佳兆(かちょう)

     
  24号から
宇術の伝承と発展を願って
 
財団法人 佐野美術館 評議員 仁田 一郎
     
 

 私達は、静岡県三島市・佐野美術館主催の「日本刀初心者講座」の受講生です。
 数年前から会員の間に、「鍛刀」の現場を見学したいという希望が出おりましたが、なかなか機会が得られませんでした。
 そのような折、本年1月「草創期の日本刀」展へ、河内刀匠ご夫婦がお見えになり、渡邊妙子館長との長年の友情から、鍛刀所見学を受け入れて頂くことが出来、今回の訪問が実現いたしました。
 訪問計画も、奥さんの細やかなご配慮を戴き、充実した日程を組むことが出来ました。
 8月23日、三島を8時14分の新幹線で出発、近鉄榛原駅に12時30分着。榛原駅から鄙びた山道を奈良交通の バスに揺られながら、「大和は國のまほろば、たたなづく青垣、山隠れる、大和しうるわし」とたたえられた、大和朝の歴史を懐古しながら、日本人の心の故郷といわれるこの地で、見学への期待を深くしました。
 沢山のお弟子さんが暖かく迎えてくれました。
 早速身支度して鍛刀所へ入れていただきました。
 刀匠はすでに横座に 座り、鞴を操作し、作刀を始めていました。
 暗い工房の中で、二人のお弟子さんが 真っ黒になって炭を切っている。「炭切り三年」とか、簡単そうに見えても難しそう です。
 親方の鋭い指示で、三人のお弟子さんが気合を込めて向う槌を打つ、激しい火花が四方に散る。見ている私達が一番緊張した瞬間でした。
 高温に熱した鋼を、打っては延ばし、打っては延ばし、打り曲げては再び熱し、それを何度も繰り返す。幾人ものお弟子さんが定められた作業(仕事)を手際よく進めている。
 刀匠は灼熱した鋼の色を、工程の進むにしたがって見極める。
 鞴の操作も、大きかったり、小さかったり、早かったり、微妙でした。
 この緊張した激しい作業(仕事)の中で、刀匠の心が刀に鋳込まれていると思うと、言い知れぬ感動を受けました。
 刀匠は、「鍛造は普通は機械を使う。しかし、私は手作りを通している。そうしないと、作刀の本質が分からなくなってしまう恐れがあるから」と、おっしっていました。
 屋外で向槌を振ってみる仲間が何人もいましたが、腰はふらつき、肩は上がらず、力を込めて金床当たるようになるには相当な年季が必要だと感じました。
 続いて、準備してくださった製品を使い「土置き」「焼入」「銘切り」と、工程のすべてを丁寧に見せていただきました。
 刀匠はさりげなくやっておられますが、幾世紀もの間に極め尽くされた芸の深さを思い、日本刀の神秘さを感じました。
 その間、気さくな刀匠の飾りない解説と、お弟子さん方の親切な解説をいただき、明るい工房の雰囲気を楽しみながら見学させていただきました。
 宿泊した旅館「杉ヶ瀬」へ、刀匠ご夫婦を始め御一門全員ご出席戴いての懇親会。大変有意義でした。展示していただいたお弟子さんの新作刀、素晴らしいものばかりでした。
 お話を伺っても、お一人、お一人が意欲を持ってこの道へ入られた尊敬できる方々ばかりでした。
 立派なお弟子さんを育てられている刀匠ご夫婦のご苦労を思い、人を育てる教育の在り方を教えられたように思いました。
 お忙しい中、親方ご夫婦をはじめ御一門揃って、心のこもったもてなし、また行き届いた御指導賜り有難う御座いました。


杉ヶ瀬にて鑑賞会


焼き入れ


土置き


銘切り実演


佐野美術館「日本刀初心者講座」の
面々と河内一門